オーディオ日本終演、オンキヨー、事業売却OEM専念、デノン・トリオ・パイオニア…、往年のブランド影薄く(2019/05/29)

 日本のAV(音響・映像)産業の衰退が止まらない。オンキヨーは主力事業であるAV事業を米同業へ売却しOEM(相手先ブランドによる生産)事業に専念する。AV機器は日本のエレクトロニクスの象徴的存在だったが、スマートフォン(スマホ)の台頭で市場の縮小が止まらず、各社は生き残りに有効な手を見いだせないでいる。オンキヨーの選択は他社の「お手本」になり得るのか。

 「AV事業での製造はやめ、OEM(相手先ブランドによる生産)での成長を目指す」。米サウンド・ユナイテッド(SU)などと協議を始めたと発表した15日午後、オンキヨーの大朏宗徳社長は従業員向けに、AV事業売却の意図をこう説明した。

 翌週の21日、オンキヨーはSUなどに事業を約82億円で売却することで合意したと発表した。「ONKYO」ブランドは自社に残し、SUから「ONKYO」ブランド製品の売り上げに応じてライセンス料を得る。6月26日に開く定時株主総会での承認を経て、7月1日付で売却する。
従業員6割減へ

 譲渡対象には中核子会社であるオンキヨー&パイオニアをはじめ、国内の販売子会社やマレーシアにある工場が含まれる。中国とアジアの販売子会社の一部事業も対象に含まれ、連結で約1600人いる従業員数は6割減る見通しだ。

 「ONKYOブランドを存続するためには仕方がなかったと思う」。あるオンキヨー社員は寂しい胸中を明かす。こう社員に思われるほど、再建に使える時間は残り少なくなっていた。

 2019年3月期には河合楽器製作所を含む投資有価証券の売却や研究開発拠点の売却に伴う売却益を10億円程度計上し、本体切り売りによる資金捻出に踏み込まざるを得ない状況だった。19年3月期のAV事業の売上高は297億円、営業利益は17億円だった。

 20年3月期の業績予想は売上高が前年比43%減の250億円、営業損益は5億円の黒字(前期は10億円の赤字)を見込む。AV事業の売却により大幅な固定費削減やライセンス供与による5億円程度の利益改善効果を見込むが、再建のメドがたったとはいえない。

 オンキヨーは1946年に大阪市で創業した大阪電気音響社が起源。旧松下電器産業(現パナソニック)のスピーカー部門に携わっていた五代武氏が同社から独立したのが始まりだ。

 「音響」製品を作る会社だから「オンキヨー」という社名に表されるように、オンキヨーがこだわったのは音であり、その出口であるスピーカーだった。そもそも五代氏が同社を創業したのも、市場に同氏が納得できる性能のスピーカーがなかったからだ。

 スピーカーに加えレコードプレーヤーやラジオ受信機、テープレコーダーなどを接続し、音源を切り替えながら音量と音質を調整してスピーカーから出力するステレオアンプが主力になった。

 レコードの全盛期だった60年代から80年代にかけてオンキヨーは山水電気やデノン、トリオ、日本マランツなど専業メーカー各社と音質とブランドを競った。電気店街としての秋葉原が台頭してきたのと同じ時期だ。

 その後は音楽を楽しむスタイルが、それまでの「家族そろって」から「個室で少人数で」にシフトし、オーディオ機器の小型化が進んだ。各社はミニコンポを競って販売し、新たにパイオニアやケンウッドなどのブランドが台頭した。CDなど音源のデジタル化にも対応した。
スマホに勝てず

 そのオンキヨーがオーディオ機器事業を売却する背景には衰退を続ける音響機器市場がある。

 電子情報技術産業協会(JEITA)によると、08年に2104億円あった国内の音響機器市場は18年に853億円と半分以下に縮小した。音楽を再生する環境が携帯音楽プレーヤーやスマホなどに変わったためだ。

 オーディオ機器メーカーはどこも苦境にある。パイオニアは15年にオンキヨーに音響機器事業を売却した。トリオを吸収したケンウッドは08年に日本ビクターと経営統合した。

 パイオニアやトリオと「オーディオ御三家」だった山水電気は14年に経営破綻し、現在はドウシシャがブランドを引き継ぐ。日本マランツとデノンは05年に経営統合を果たしたが17年3月にオンキヨーが事業を売却するSUが買収している。

 海外でも再編が進んでいる。17年には「JBL」「ハーマン・カードン」などのブランドを傘下に持つ米ハーマンインターナショナルを韓国サムスン電子が買収している。

 苦境に陥るメーカーが多いなか、1925年にデンマークで創業したバング&オルフセンは、音響性能に加えデザインや操作性で他社と一線を画し高級AV機器メーカーとして健在だ。

 オンキヨーは祖業を売却しOEM事業に将来を賭けるが、計算通りに行くとは限らない。同社の林亨取締役は事業規模について「3年内に売上高を300億円、5年内に500億円まで拡大したい」と成長スピードを強調する。

 だが株式市場には「コストと技術力の両面で競争は厳しくなっている。思惑通りの成長シナリオになるかどうか見極めが必要」(楽天証券経済研究所の窪田真之所長)との声もある。

 祖業を捨てたオンキヨーの賭けの成否は、OEMが日本の製造業の生き残りモデルとして機能するかどうかの試金石になりそうだ。

オンキヨーと「ONKYO」ブランドの歴史

1946年  前身である大阪電気音響社が創業 
  57年  東京芝浦電気(現・東芝)の傘下に 
  71年  オンキヨーに社名変更 
  07年  ソーテックを買収 
  09年  オンキヨーブランドのパソコン発売 
  12年  米ギターメーカーのギブソンが資本参加、2位株主に(1月) 
       ティアックと資本業務提携(1月) 
  15年  3月、パイオニアのAV事業統合 
       11月、河合楽器製作所と資本業務提携 
  18年  ギブソンがオンキヨー株をほぼ売却 
  19年  AV事業を7月に売却へ

同業他社の動き

2002年  ナカミチが民事再生法の適用を申請(2月) 
       デノンが日本マランツとディーアンドエムホールディングスを設立(5月) 
       ソニーがアイワを完全子会社に(10月) 
  08年  ケンウッド(トリオ)と日本ビクターが持ち株会社設立 
       ソニー、アイワ製品の販売終了 
  13年  ティアック、米ギブソンと資本業務提携 
  14年  山水電気が破産手続き開始 
  17年  韓国サムスン電子、米ハーマンインターナショナルを買収(3月) 
       十和田オーディオ傘下で「AIWA」ブランド復活(4月)

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