ヘッドセットSHIDO―オンキヨー商品企画部佐野恭平氏、eスポーツで勝てる音(2019/03/20)

オンキヨーは1月、ゲーム対戦競技「eスポーツ」向け新ブランド「SHIDO(シドウ)」を立ち上げた。米ラスベガスで開催された北米最大の家電IT見本市「CES」で開発中のゲーム用ヘッドセットを公開。既存メーカーがパソコンを起点にした機器を開発するなか、ヘッドホンなどAV機器の技術を生かし参入する。商品企画部の佐野恭平氏に聞いた。

――ブランドを立ち上げた背景を教えてください。

「eスポーツが盛り上がりを見せるなか、ゲーム用ヘッドセットの需要は高まっている。ヘッドセットのプレーヤーを調べると、ゲーム専業が多いことが分かった。しかもパソコンメーカーから派生した企業が多い。オンキヨーはパソコン用音響機器『ウェビオ』をかつて展開した実績があった。利用者が装着する製品開発なら勝機があると考えた」

――ゲーム用として技術的に難しかったポイントを教えてください。

「使い勝手と付け心地の両立だ。ゲームの操作は非常に高度でスピーディーになっており、音が正確に聞こえないと勝負を大きく左右する。ただ音声の聞きやすさのみにこだわれば、耳に対する側圧が強くなり痛みの原因になってしまう。痛みをなくそうと単純に側圧を弱めれば、音漏れなどの原因につながる」

「ゲーム用は場合によって最大10時間連続で使う。最大3~4時間程度を想定しているオーディオ用に比べて、かなり長い。そのためオーディオ用の設計そのままでは対応できないので、一から設計を考え直した。最終的には、耳の形に合わせるように周辺構造を3次元(3D)で独自設計した」

――どのように開発を進めてきましたか。

「開発したヘッドセットは、ヘッドホンとマイクを組み合わせてワンセットにした。デザイナーと2人で開発プロジェクトを立ち上げたのが2018年2月。ただ、オンキヨーはゲーム向けにノウハウがなく、既にゲーム用ヘッドセットを手掛けているメーカーと組むべきという話になった。幹部を通じてある海外メーカーと交渉が始まり、現在はオンキヨーが設計・開発を担当し、パートナー企業に製造を委託するかたちにしている」

「2019年1月のCESで試作した開発品を展示した。本来のプロセスであれば発売直前に披露するが、今回はあえて試作段階で展示した。あらかじめコンセプトを公表することで、より良いモノをつくるのに必要な技術を持ったパートナー企業を探す狙いがあったためだ」

――これからの開発方針は。

「ゲーム音の数値化を進め、より良い製品づくりにつなげたい。このほど社内メンバーを募り、音質専門のチームを作った。驚いたのは、構想を話してみると意外と社内にゲーマーが多く存在することだった。なかには大会優勝経験者もいた。ゲームに精通した人たちに『ヘッドセットにはどんな機能が求められるか』をヒアリングしている。彼らと連携しながら、実際の使い心地をさらに追求していきたいと思う」

先行との差別化カギ

オンキヨーはゲーム用ヘッドセットを新規事業の目玉として育成していく。ただ、新ブランドがeスポーツの世界に思惑通り浸透するかどうかは、ゲームに求められる音のクオリティーをどこまで追求できるかが勝負となる。

パソコンゲームのユーザーの大半は機能性を重視している。オンキヨーが得意とする領域とは若干異なる。既存メーカーでは、ゲーム用専業の米レーザー、米ロジテック。パソコン系では米デルから派生したエイリアンウエア、米HPから派生したオーメンなどが有名だ。競争するプレーヤーの顔ぶれも違う。

新規参入のオンキヨーがファンを獲得するためには、装着感はじめオーディオで培った技術を生かしながら、先行組との明らかな違いを打ち出す必要がある。「ゲーマー」というこれまでにない対象にどうアプローチするか。音声を数値化してソフトごとに最適な音質を実現するなど、老舗メーカーだからこそ可能にする新たな発想が欠かせない。

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